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第014-1話 落ち着かない目玉

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-01-11 11:19:24

自宅。

 ディミトリも普段は平凡な中学生『ワカモリタダヤス』を演じなければならない。

 平日の昼間は学校に行かなければならないのだ。

(また、クソッたれな場所に通う事になるとは思わなかったぜ……)

 退屈極まる時間をジッとしているのは苦痛だった。

 知識が無いので授業の内容が理解出来ないからだ。

 彼は教室では口をきかなかった。この国の中学生の常識が皆無なので話がつまらない。

 それと面倒臭い事になるのを避ける為だ。

 事故の事は予め全員に知らせているようなので、クラスメートもディミトリには積極的に話しかけては来なかった。

 後遺症があるという事にしてあるが、時々はサボって保健室で寝てたりした。

 そうすると先生たちに依怙贔屓されていると勘違いするのも当然のように居るものだ。

 トイレに行って用をたし、教室に戻ろうとすると同じクラスの大串が立ちはだかっていた。

 何故か目玉をギョロギョロ動かしてる。

 大串の子分たち二人も来ていて、トイレの出入り口を塞いでいた。

(何かを探しているのだろうか……)

 ディミトリは無視して通り過ぎようとすると再び立ちはだかった。

 やっぱり、目玉をギョロギョロと下から上へと動かしている。

 いつだったか、病院抜け出した時に絡まれた金髪にも、似たような事していたのを思い出した。

(ああ、威嚇してるつもりなのか……)

 ディミトリが育った街では威嚇などしないで拳で語ることが多かった。次がナイフだ。最後は拳銃で撃ち合った。

 ところがこの国では違うらしい。目玉をギョロギョロ動かすのが相手への威嚇になるらしい。

 中々、滑稽な風習なのだなと思った。

「何の用だ?」

「あっ?」

 面倒くさいが一応話は聞いてあげようかと声をかけてみた。

 やっぱり、目玉をギョロギョロ動かしている。

「何の用だと聞いている……」

「誰に向かって聞いてるんだっ! あっ!」

 まるで話が噛み合わない。頭の悪そうな相手にディミトリは目眩がしてきた。

 それと同時に時間を無駄に使わされるに腹が立ってきはじめた。

「調子こいてるんじゃねぇーよっ!」

 まだ、目玉をギョロギョロ動かしている。

 ディミトリは吹き出しそうになるのを堪えていた。

「おめぇの目つきが気に入らないんだよっ!」

 ディミトリがニヤついたのをバカにされたと勘違いした大串が大声を出しはじめた。

 そのまま
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    大串の自宅前。 武器を捨てられてしまったディミトリは気を取り直して大串の家に向かった。(クソッ! せめて拳銃だけでも無事だったら良かったんだが……) 他にも減音器も捨てられていた。玩具の銃は壁に飾ってあるので、それと一緒に飾っておけば良かったと後悔している。 銃弾は別に保管していたので無事だ。筒状のパイプでも有れば単発式の発射装置が作れるが、工作している暇が無かった。 単純に筒に弾を詰めて、釘か何かで雷管をひっぱたけば良さそうだがそうは簡単にはいかない。 銃弾を固定してやらないと暴発して自身も怪我をするからだ。最低でも薬室を作ってやらないと駄目なのだ。 手持ちの武器らしい武器は自作のスタンガンとスリングショットぐらいだ。これでは心許ない。(致命傷は無理でも牽制には使える程度だな……) 無くなった物を惜しんでも手元には帰ってこない。それより目の前の問題をどうするかの方が大事だ。 しかし、ディミトリの少なくない経験から、ケチが付いた作戦は中止するべきとの教訓もある。(確かに中断するべきだが……) 何よりディミトリには気になる点があったのだ。(何故、俺を指名したんだ?) 取引自体がディミトリを誘き寄せる罠であるのは分かった。だが、何故面倒な真似をしてまで罠に嵌めるのかが謎だ。 それは罠を張った連中を確かめる必要を示唆している。(あの連中が罠なんて面倒な手間をかけるとは思えないんだがな……) あの連中とは鏑木医師を殺害した連中だ。中国語を話していたと思うので中国系と思っていた。 不思議なことに連中は、日数が経過しているにも関わらず手を出してこない。 鏑木医師の事を知っているのなら、ディミトリの事も知っているはずだ。 自分たちの存在が知られたと判明した時点で、自分なら対象の身柄を押さえる。逃げられてしまったら困るからだ。 だが、彼らはそうはしない。銃を持って襲撃するような連中だ。荒っぽい仕事には慣れているはずなのにだ。 これは何を意味するのか? ディミトリには四六時中見張りに付いている連中がいる。その彼らの前で仕事を嫌がっていると捉えていた。 そして、今回の連中は面倒な罠を用意している。これは自分を見張っている連中とも違う事を示唆しているはず。(つまり、今回の罠を張った連中は俺を監視している連中とも、鏑木医師を殺害した連中と

  • クラックコア   第031-0話 裏目に好かれる人生

    翌日。 ディミトリは祖母に具合が悪いので、病院に寄ってから学校に行くと伝えた。 心配して付いてくると言い張る彼女を説得して、一人で出掛けたディミトリは家電量販店に居た。 ここで小道具の材料を調達するためだ。今回はどう考えても罠にハマりに行くのだ。下準備無しで乗り込むほど自信家では無い。 彼が購入したのはレーザーポインターだ。それと玩具のリモコンも購入した。このリモコンでスイッチを操作するのだ。 レーザーポインターは名前の通りレーザーの強烈な光でポイントを示す物だ。普通に使えば便利な道具だが、カメラにとっては脅威となる代物だ。 レーザーポインターをカメラのレンズに向けて照射する。すると、カメラの中にある電子素子(LCD)は強烈な光で飽和してしまう。つまり、映像をまともに作れなくなってしまうのだ。 これは空き巣や銀行強盗などの時に、防犯カメラを無効にさせる為に使われる手口だ。本格的なやつは赤外線レーザーを使う。カメラに付いている電子素子(LCD)が早く飽和するからだ。 目的のものを入手したディミトリは、そのまま例の廃工場に向かった。前日に開けておいた裏口を通り、カメラが設置されている場所までやって来た。 そして、床に積もった埃に異常が無いのを確かめると、今度はカメラがレーザーポインターで狙い易い位置にやってくる。そこには埃だらけの元資材が積み上げられていた。 手のひらに入る程度のレーザーポインターなので隠すのは簡単だった。(よし、仕掛けは出来た……) ディミトリはレーザーポインターをダンボールの影に隠して学校へと向かった。どうせ使い捨てなので見てくれは気にしていない。 道具は役に立ってこそ意味があるとディミトリは考えていた。 午後から登校したディミトリは何事もなく過ごした。そして、下校時間になると大串の方から声を掛けられた。 大串は時間をずらされて焦っているようだ。そして、ディミトリが受け渡し場所に下見に行った事には気が付いてないようだった。「今日はちゃんと来いよ」「ああ、今夜は何時頃行けば良いんだ?」「夜の七時に俺の家に来てくれれば田口の兄ちゃんが車で送ってくれるってよ」 田口というのは子分の一人だ。クラスメートなのだがディミトリは初めて名前を聞いた気がしていた。「そうか、分かった……」 ディミトリは素っ気無く返事をした。

  • クラックコア   第030-2話 仕事熱心な狙撃兵

     ディミトリは部屋の中央に進み出てみた。死角になる場所が有るかどうかをチェックする為だ。 するとシャッターの脇から二階に伸びる階段に気が付いた。(二階が有るのか……) そのまま部屋の真ん中に立って見回していると、ある物に気がついた。二階にカメラが取り付けられている。 角度的にも部屋を全て網羅しているみたいだ。(ほほぅ……) 階段を上がって傍に寄って見てみると真新しいカメラだった。まだ、設置されたばかりなのだろう。(まだ稼働はしてないみたいだな……) カメラに電源らしきものは入っていないようだ。触ってみても冷たいままなのだ。 ディミトリはカメラの側面に書いてあるメーカーの型番を控えた。家に帰ってから性能を調べる為だ。(俺を撮影する気か?) 防犯の為なら外に向けて取り付けるし、電源は入れっぱなしにするだろう。だが、室内の中央に向けて設置してある。 この工場に呼び出した人物を撮影するためだ。そして、それはディミトリである事は明白だ。(もしくは狙撃の補佐用……) 場所などのマーキングが済んでいれば狙撃の射角などが容易になる。 重要な対象を確実に仕留めるために行う狙撃方法だ。(狙撃兵か……) ディミトリはとある戦場の前線で一緒になった狙撃兵を思い出した。 ある時、狙撃兵が何かを目標に照準して撃っていた。(休憩中なのに仕事熱心な奴だな……) 仕事熱心な狙撃兵にディミトリが質問した。『何を狙っているんだ?』『空き缶を狙っている』 彼はそう答えた。 ディミトリが見ると百メートル程先に空き缶が並べられていた。『……』 もう少しまともな物を狙えば良いのにとディミトリは思っていた。 彼は狙いを付けた物を外さないからであった。『今度の狙撃大会で優勝して後方任務にしてもらうんだよ』 そんなディミトリの思惑を感じ取ったのか狙撃兵が話を続けてきた。 彼は狙撃大会に出場して優勝するのを目標としているようだ。技量優秀な者は後方任務で温存してもらえる。宣伝に使えるからであった。『なら、あの野良犬を的にすれば良いんじゃないか?』 静止した的と動いている的では難易度に違いが出てしまう。練習をするのなら難しい方が技量向上が望めるはずだからだ。 そう思って彼に提案してみたのだ。『それは駄目だ……』 ディミトリの提案は、にべもなく断られてし

  • クラックコア   第030-1話 死角になる場所

    廃工場。 ディミトリは背中のバックから暗視装置を取り出した。 鏑木医師の所で収穫した物だ。使い勝手の確認も兼ねて持ってきたのだ。 バックの中身は他にガン雑誌も入れてある。万が一の時にはミリタリーマニアを装う為だ。 ディミトリは暗視装置を頭に付けて電源を入れてみる。 収奪した後に一度だけ試してみたが、昼間だったせいなのかピンと来なかったのだ。 そして、思っていたより鮮明に見えるので驚いてしまった。(最新型なだけ有って建物内の様子が鮮明に見えるな……) 兵隊時代に使っていたものは、ロシア製の重くて使い勝手が悪い物だった。それと比べると雲泥の差がある。 手袋をした自分の手を映しながら握ったり広げたりしてみた。 ロシア製の物だったら真ん中が明るくて端っこが暗くなってしまう。ところが、使っている中華製の奴は全体が均一に明るいのだ。もっとも、中身の日本製の部品で実現出来ているのをディミトリは知らない。(ふむ…… 時代の進む速度が凄いもんだな……) とりあえずは、取り残されないように気を付けないと、中身が三十五歳のディミトリは思ったのだった。(さて、人の気配はしないし奥に進んでみるとするか) 気を取り直したディミトリは足音に気を付けながら進んでいった。工場の中は耳が痛くなるような静寂に包まれている。 聞こえるのはディミトリの息遣いだけなのだ。 裏側から入ったからなのか廊下には小部屋が並んでいた。 元は工場だったので様々な作業を部屋ごとに行っていたのかもしれない。(まあ、良くある配置だな……) その中の一室には錆びたバーベキューコンロが部屋の中央にあった。結構、使われていたのだろう。炭などが残ったままだ。 脇には調味料たちが無造作に置かれている。さすがに今はもう使え無さそうだとディミトリは思った。(浮浪者が入り込んで生活してたっぽいな……) 部屋の隅に有る薄汚れた布団を見ながら考えた。そこには元の住人が捨てていったらしい衣類などが積まれている。 だが、布団に薄っすらと掛かっている埃の具合から見て、長らく使用されて居ないものと判断出来た。 その隣の広めの部屋は焦げ跡がアチコチ付いている。 空き缶とかも落ちているので、DQN達に花火でもされた跡であろうと推測した。(室内で花火って何を考えていたら出来るんだ……) 外でやると目立ち過

  • クラックコア   第029-0話 潜入者の手法

    「ははは、そのうちにな」「ああっ!」 ディミトリは彼から不要になったモデルガンの空き箱を調達したのだった。その空き箱に分解した武器をしまってある。 こうしておけば気付かれること無く秘匿出来ると考えていたのだ。(うっかり触って暴発でもしたら怪我させてしまう……) 祖母が本物と玩具の違いを、理解できるとは考えにくいが万が一の事を考えたのだった。(まあ、組み立ては一分も有れば余裕で出来るし) 咄嗟の事態に対処出来ないが、武器を剥き出しで持っているよりは安全だろうと考えたのだった。 夕方になり早めの夕食を済ませたディミトリは、ランニングに行くと言って出掛けた。行き先は現金受け渡し場所の廃工場だ。 地図によると自転車でも一時間はかかる。早めに下見を行っておくことにしたのだ。 廃工場に到着したディミトリは道路を挟んで観察を始めた。工場はフェンスに周りを囲まれている。高さは二メートル程。 正門の扉は閉まっていた。工場自体は町工場を少しだけ大きくしたような印象だ。さほど大きくは無い。「あれか……」 ディミトリは場内を単眼鏡で中を観察し始めた。いくら無人だろうと思っても、防犯カメラくらいはあるだろうと踏んでいた。 しかし、それらしきものは無かった。それでも正門から入っていくのは止めにした。 まずは、潜入して中の様子を頭にいれる方が良いと判断したのだ。 道路の反対側に面した建物の窓から入ることにした。中を覗き人の気配が無い事を再び確認したディミトリは、閉まっているのに気が付いた。(くっそ…… ガムテープも無いしどうしよう……) 防音の為にガムテープを窓に貼り付けてガラスを割る手法がある。音もしないしガラスが飛び散らないので便利なのだ。 ディミトリは他の入り口は無いかと付近を見回した。(ん? あれが使えるかも……) ディミトリの目線の先に有ったのは制汗スプレーだ。近くに女性物のポーチが有るので誰かが落とした物なのだろうと考えた。 振ってみると少しだけ音がする。埃にまみれて古いようだが中身がまだあるようだ。(よしよし……) スプレー缶のガスはブタン・プロパンなどを主成分とした液化した可燃性のLPGガスが多い。 ディミトリは窓の鍵が有る部分に、スプレーを噴射したままライターで火を着けた。スプレーのガスで出来た炎は窓ガラスをメラメラと炙った。

  • クラックコア   第028-2話 違う世界

    「要するに大串のフリをして、売人に金を渡せって事か?」「ああ」「結構な金額になるだろう」「ああ、金なら用意する……」「……」「二百万程度だ。 俺の小遣いでどうにでも出来る」 ディミトリは自分の境遇が馬鹿らしくなって来るのを感じていた。二百万程度と言い切る中学生がいるのに、こちらは小遣いをやりくりしながら凌いでいるのだ。「タダじゃやらないぞ?」「十万くらいならお前にやるよ」 ディミトリは目を剥いてしまった。どこの国でも金持ちのボンボンは価値観が違うものだ。 まるで違う世界に生きているようなのだ。 それでも、ディミトリは引き受けるつもりだ。(そうか…… その売人をどうにかすれば、二百万が手に入るのか……) ディミトリは密かな企みを思いついていたのだ。 薬には興味無いが、金には大いに関心がある。何故なら渡航費用の一部に出来る。「金の受け渡し場所はどこだ?」 大串は川沿いにある倉庫を言ってきた。使っていた会社が潰れて無人なのだそうだ。 ディミトリはスマートフォンで地図アプリを呼び出して場所の確認をしてみた。周りに人家は無く、中小の工場が多い場所だ。 きっと、夜間には無人になっている事だろう。「それで金の渡しはいつやるんだ?」「今夜だ」 随分といきなりの予定でディミトリは面食らってしまった。「それは駄目だ。 俺には用がある」「え?」「塾が有るんだからしょうがないだろ」 もちろん嘘だ。ディミトリは受け渡し場所の下見に行くつもりなのだ。 行き当りばったりで実行しても、上手くいかないのは知っているつもりだ。これまでにも散々痛い目に遭っている。「金額が大きいから引き出しに時間が掛かると言えば良いだろ?」「ああ、分かった……」 今度は武器も有るし下準備の時間も有る。上手く行きそうだった。 大串との会話を終えたディミトリは教室に戻ってきた。大串たちはディミトリが代役を引き受けたので安心したようだ。 何度も礼を言ってきた。(乱暴者を装ってもヤクザ相手はキツイって事か……) そんな事を考えながら教室に入っていく。するとクラスメートの田島人志が話しかけてきた。「よう、まだモデルガンの空き箱探してる?」「いや、飾りたかっただけだから足りているよ」「いつでも言ってくれ、新しい奴は取ってあるからさ」「ああ、分かったよ。 あり

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